最近、無類のビール好きとして知られる椎名誠さんの旅エッセー『あやしい探検隊 北海道乱入』(角川文庫)を読んでいて、こんな一節に目が止まった。「目の前にヒエヒエのビールを出されてひっこんでいるわけにはいかない」
▼何が心に引っ掛かったのか。少し考えて、ある事実に思い当たった。そういえば自分はことしに入ってから一度も居酒屋で「とりあえずビール」のひと言を発していなかったのである。もちろん、新型コロナウイルス感染を警戒して全く飲みに出なくなったためだ。会社の歓送迎会は軒並み中止。恒例のさっぽろ大通ビアガーデンも規模が大幅に縮小された。今でも大勢で集まって飲むことには批判的な雰囲気が漂う。これではビールを主力とするメーカーも青息吐息だろう
▼外で飲まない分、家で飲む人が増え、近頃はアルコール度数の高い缶酎ハイに人気が集まっているのだとか。どうせならあまりお金をかけず、効率よく酔いたいというわけだ。ビールの肩身はますます狭い。そんな状況の中、きょうからビール系飲料の税金が変わる。酒税法の改正により350㍉㍑換算でビールが7円下がって70円、第3のビールが9・8円上がって37・8円になるという
▼本格ビール党にはいいが、庶民としては安くてうまい第3が増えたところを狙われた感がないでもない。6年後のビール系飲料税一本化に向けた経過措置だが、まあ、当局が損になることをするわけもあるまい。他は日本酒が減税でワインが増税。酎ハイは変更なし。さて、きょうの「とりあえず」は何にしよう。