世界が平らになる―。米国著名ジャーナリスト、トーマス・フリードマンは2006年発表の『フラット化する世界』(日本経済新聞出版)でそう主張した。平らになるとは互いを隔てていた壁が消えること。国境や経済、人種、年齢、性別などがその壁である
▼なぜ消えるのか。理由はIT革命とインターネットの普及にある。簡易なデバイスさえあれば誰もが同じ情報を入手でき、世界に向けて発信もできるのだ。世界の人々は対等な立場で横につながり、風通しのよい関係は既に多くのイノベーション(新機軸)を生み出している。視点を世界から国内に変えても同じこと。このフラット化にやや乗り遅れているのが日本である。菅首相に交代して、ようやく重い腰を上げるようだ
▼政府が9月30日、行政サービスのデジタル化を一元的に担うデジタル庁の創設に向け準備室を発足させた。省庁にはびこる無益な縄張り主義を打破し、縦割り行政の弊害をなくすのが目的である。ただ、そこはあくまで入り口。これをてこに次世代通信網整備やスマートシティ建設、企業のICT実装化、IoTとAIの活用といったデジタル社会の実現を大胆に進めるビジョンが首相にはあるようだ。デジタル庁を新たな成長戦略の柱と位置付けている
▼日本の場合、民間レベルで進むフラット化を行政に阻害される例が少なくない。首相は各省庁から準備室に集められた担当者を前に、省益や前例主義を捨てるよう訓示したという。いわば準備室は小さな「フラット化した世界」。壁のない世界をどこまで広げられるか。