昭和の終わりころまでは、建設や製造の現場でまだ普通に使われていた言葉だろう。「けがと弁当は自分持ち」である。〝事故でけがをして痛い目に遭うのは自分だ。十分気をつけろよ〟との助言をユーモア交じりに与えるものだが、今なら上の者が責任を放棄していると捉えられかねない
▼多少の過失があっても事故にならない現場づくりが求められ、当事者に責任を負わせて終わりという時代でもないためである。最近、気になる記事を見た。時事問題を扱うウェブサイト『アゴラ』に掲載されていた「知られざる災害リスク」である。自治体に協力して自然災害の復旧に当たる建設関係者が不慮の事故に遭ったとき、十分な補償がないという内容だ
▼実際その通りで、自治体はもちろん自衛隊や警察、消防の職員なら公的補償を期待できるが、建設関係者は民間の協力者ゆえそれがない。まさに「けがと弁当は自分持ち」になりかねないのが実態だ。真っ先に災害現場へ飛び込んでゆくのは同じなのにである。本紙9月4日付11面「胆振東部地震2年」の記事で、この地震を経験して「災害復興に携わる建設業界に入りたい」と今春、砂子組(本社・奈井江)に就職した金谷柊迆さんを紹介していた。建設関係者には地域を守る使命感に燃えた人が多い
▼それだけにいざ自然災害で何かあったときの補償が労災保険だけというのは寂しい限り。地域の建設業者は普段の見回りから災害時の初動、応急復旧、復興まで全てに関わる。普段の現場とはまるで状況は違う。もしものときの支えはもっとあっていい。