動物が突然の環境変化に対応するため、常識外れの能力を発揮するのにはいつも驚かされる。中には妊娠を一時止める「発生休止」という現象もあるそうだ
▼シカやネズミ、アザラシなど哺乳類の一部で、そんな自然の摂理に反するかのような生態が観察されるという。飢餓状態が長く続き授乳できない、気候が子育てに適さないといった過酷な状況に陥ると妊娠をいったん休止。母親の環境が良くなると再開される。根本的な仕組みはまだ詳しく分かっていないらしいが、野生の厳しい生存競争の中で生き残るには必要な能力なのだろう。遠い昔に野生を失った人間には縁のない能力と思っていたが、もしかするとそうでもないのかもしれない
▼厚生労働省が全国の妊娠届を緊急調査した結果、ことし4―7月の届け出件数が前年同期比11.4%減になっていたというのである。新型コロナウイルス感染拡大の不安が高まったことで、減った可能性があるという。生物学的でなく社会的に妊娠が抑制されたわけだ。21日の発表によると最も減少幅が大きかったのは5月の17.1%減。件数は4月から一貫して前年を下回っている。目に見えないウイルスと底知れぬ収入減がダブルで襲ってきたのでは、子育てに二の足を踏むのも無理はない。野生の勘が働いたということか
▼ただ、昨年90万人を割った出生数が来年は80万人にも届かないとの見方も出ているそうだ。少子高齢社会の日本にとっては泣き面に蜂である。このままでは将来に禍根を残す。一日も早く安心して産み育てられる環境を取り戻さなければ。