巨大隕石落下で第2次大戦直後から宇宙移民を進めねばならなくなった人類の挑戦を描くSF『宇宙(そら)へ』(メアリ・ロビネット・コワル、早川書房)を最近読んだ
▼胸が弾んだのは初めて打ち上げが成功した場面である。「首尾よく軌道に乗れば、これで宇宙ステーション確立に一歩近づくことになる。それはつまり、月面基地に一歩近づくということだ。そして、火星、金星、その他の太陽系の惑星にも」。未来をかけて宇宙に乗り出して行こうとするときの人々の希望と高揚がこの一節に凝縮されている。民間宇宙船の運用第1号クルーに選ばれた野口聡一さんも今、同じ気持ちでいるのでないか
▼本欄執筆時点ではまだ出発していないが、うまくいけばこの新聞が届くころには国際宇宙ステーションに向かっているはずである。搭乗機は米スペースX社の「レジリエンス」。困難を乗り越えることを意味する言葉だ。クルーチームが新型コロナウイルスに打ち勝とうとの願いを込め、命名したという。野口さんは今回、約半年間の滞在で人工多能性幹細胞(iPS細胞)の実験や東日本大震災10年のメッセージ発信に取り組むそうだ。打ち上げを間近に控えた9日には、人気漫画『鬼滅の刃』を意識し「〝全集中〟で臨みたい」と語ったというから気合は十分なのだろう
▼宇宙といえば20日後の12月6日には、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの物質を携え地球に帰ってくる。地上は新型コロナの感染再拡大で沈んだ雰囲気もあるが、そんなときこそ「そら」を見上げ明るい希望を取り戻したい。