冬来たりなば春遠からじ―。長い冬の入り口に立つ今時期、毎年その言葉で自分を励ましている。詩人丸山薫の随想「春来るまで」を思い出すのもこのころだ
▼雪に閉ざされた山間の村で春を招き寄せるためにしているこんな作業が記されているのである。春を人力で呼ぼうと子どもたちが「箱橇に土をつんで、遠くへ運んでゆく。そして土をばら撒く。土の黒さが太陽の熱を吸って、田畑を覆う雪を消すようにと」。その風景を毎日眺めていた丸山はある日起きた小さな変化も見逃さなかった。「とうとう、どこかにぽっかりと穴があく。そこから半年ぶりに懐かしい土がのぞく。ああ、黄金いろの福寿草!」。待ちわびた春の象徴。歓喜の瞬間である
▼こちらも雪解けの兆しといっていいのかもしれない。米国の新型コロナウイルスワクチンが開発の最終段階で高い有効性を示したことが分かった。期待の大きさだろう。きのう、東京株式市場の日経平均株価が29年ぶりに2万6000円台の値を付けて引けた。米製薬会社モデルナが16日、最終治験で94.5%の有効性が得られたと発表すると、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は過去最高値を更新。翌日の日経平均もこれに引っ張られる形で寄り付きから続伸したのである
▼何度も猛吹雪に襲われた過酷な冬が終わるとなれば人々の気持ちが上向くのも当然だろう。コロナに閉ざされ何も見えなかったところにぽっかりと穴が開いたのである。先の随想で子どもが言う。「先生。今朝、燕を見ました」。ワクチンも早く渡ってくるといいのだが。