土木学会が認定した「選奨土木遺産」の一つに柳原水閘(すいこう)がある。千葉県松戸市西部の坂川が江戸川に流れ込む合流点付近に造られた樋門で、1904(明治37)年に完成した
▼坂川は古くから逆川とも呼ばれ、増水時には江戸川から逆流した水で一帯がいつも氾濫被害に遭っていたらしい。そこで造られたのがこの水閘だ。増水時にゲートを閉め、江戸川との関係を切ることで被害を軽減できたのである。上流側通水部はれんが造り4連アーチが強度を確保しながら、美しさも兼ね備えて風景になじむ。施設ができてやっと住民の生活と農業は安定したのだった。地域の課題を土木技術が解決した好例だろう
▼こちらもその技術が役立てばいいのだが。熊本県の蒲島郁夫知事が先週、これまで反対していた川辺川ダムの建設を一転容認した。遊水地設置や堤防強化などを組み合わせた「脱ダム」治水を目指してきたが、遅々として進まず、昨年7月の球磨川氾濫でついに甚大な被害を出したためである。清流と、川と共にある暮らしを守りたい。その願いはよく分かる。ただ根本的治水対策もせず、毎年のように人命と財産が失われるのを見過ごすわけにはいかない
▼通常時は川をそのまま流し、増水時のみ水を調整する貯水機能のない流水型ダムを知事は構想しているという。土木技術の多くは標準化されているが、どこまで地域特性を考慮し、オーダーメードのように働かせられるかで真価が決まる。柳原水閘はそれを教えていよう。いざ建設となれば、川辺川ダムも後世に誇れる施設にしたい。