テレビで時代劇を見ていると、盗賊が商家の大店に押し入ろうとするとき、店の手代が裏で手を引いていることがある。史実に基づくのかどうかは分からないが、盗賊も手代を味方に付けておけば仕事が楽になるのは間違いない
▼家の者が寝静まる時間はいつか、金目の物はどこに、忍び込むのに目立たない場所は―。手代なら何もかもを把握している。店の主人としては、飼い犬に手をかまれたという気持ちだろう。丁稚から育ててくれた恩のある商家に、どうしてそんな不義理を働くことができたのか。動機は単純だ。大金を手に入れたかったのである。道を踏み外す人間の愚かさは、いつの時代も変わらないらしい
▼大阪府警が1日、新型コロナウイルスの影響で収入が減った個人事業主らを支援する国の持続化給付金を搾取したとして、大阪市の元税理士の男を逮捕した。顧問を務める会社などの関係者に不正受給を指南し、2000万円以上の報酬を得ていたそうだ。この男、大阪国税局のOBだという。つまり国の手続き事情に詳しい自らのキャリアを悪用し、国の金庫から金を奪う犯罪の手引きをしたのである。手口はこうだ。関係先の従業員らを個人事業主に仕立て、偽の確定申告書を作成して中小企業庁の専用サイトから申請。口座に100万円を振り込ませる
▼その数、およそ100件というから随分と荒稼ぎをしたものである。「盗人を捕らえて見ればわが子なり」。税務署を巣立った上席国税調査官が、まさか税金をかすめ取る方に回るとは国も思わなかったろう。あきれた話でないか。