子どものころ、冬の夜には寝る前に母が必ず湯たんぽを用意してくれた。やかんで湯を沸かし、トタンでできた波目付きの銀色のタンクにたっぷりと注ぐ。タオルで包めばできあがりである。しばれる夜もそれがあると安心してよく眠れた
▼「湯湯婆は家族の歴史知っていた」増田栄子。湯たんぽは俳句の冬の季語にもなっている。それだけ多くの人に愛されてきたのだろう。家族の歴史を知っているのも当然である。そんな湯たんぽはもう過去の遺物かと思っていたが、そうでもないらしい。ネットで調べると主に樹脂製のものがかわいいカバーと共にたくさん売られていた。どうやら手頃な暖房具として人気があるようだ。事故が起こるのもうなずける
▼消費者庁が先週、湯たんぽを正しく安全に使うよう注意を呼び掛ける文書を発表した。毎年12月から2月にかけて事故が多く発生しているそうだ。破損や破裂でやけどを負う例がほとんどだという。そういえば昔もじかに触れて熱い思いをすることがあった。2015年11月―20年10月に108件の事故が報告され、うち68件がやけどだった。治療に1カ月以上を要した重傷も31件に上っている。近年は通電して温めるタイプの事故が目立つのだとか。規定以上に通電したり、もともと粗悪品だったりで破裂する例が多い。亀裂や破損、劣化には日頃から注意が必要だ
▼「勿体なや湯婆のお湯に火傷する」竪阿彌放心。少し湯がかかって軽くやけどをするくらいなら後で笑い話にもできるが、破裂して病院に担ぎ込まれたのでは家族の歴史にも傷痕を残す。