宮沢賢治の『風の又三郎』にこんな場面があった。その日の授業が終わったところである。先生が子どもたちに言う。「きょうはここまでです。あしたからちゃんといつものとおりのしたくをしておいでなさい。それから四年生と六年生の人は、先生といっしょに教室のお掃除をしましょう」
▼学校には掃除当番がつきもの。好きだった人は多くなかろうが、自分が使った場所をきれいにする習慣は自然と身に付いた。日本人なら児童や生徒が学校の掃除をするのは当たり前だが、実は世界ではあまり例がない。業者に任せるのが一般的らしい。その起源は定かでないものの、修行はまず身の回りを整えることからという仏教や神道の影響も大きいようだ
▼そうした日本式教育を取り入れ、成果を挙げているのがエジプトである。2016年ころから日本政府や国際協力機構(JICA)の協力も得て、学校掃除や学級会、日直、保護者参加活動などを実践。子どもたちに協調性や規律を守る心が育っているそうだ。その流れを加速しようと、今度はエジプト政府が日本人の校長経験者を指導役として招請する計画を進めているのだとか。最大で100人というからなかなかの規模である。読売新聞が26日付で伝えていた
▼日本の教育文化が他国に認められるのはうれしいものである。学校で整理整頓や手洗いの習慣、他者への気配りが身に付けば、これからの時代に必要な感染症対策にもなろう。あえて一つ心配な点を挙げるとすると、そのうち男子が掃除中にほうきでチャンバラを始めることくらいだろうか。