体内に侵入して病を発症させる異物に抵抗し、健康を保つ働きをする免疫(immunity)の語源は〝神のご加護〟である。聞いたことがある人も多いのでないか
▼中世ヨーロッパで黒死病とも呼ばれたペストが猛威を振るったとき、幸運にも生き残った人は患者と接しても二度と病気にかからなかった。それが神のご加護だと信じられ、ローマ教皇が恵みを受けた人の税金を免除したことから発した言葉という。ただ、神は忙しいし気まぐれなところもある。加護を待っていては死人が増えるばかり。そこで開発されたのが人工的に免疫を獲得するワクチンである。ジェンナーが天然痘の予防に牛痘を使ったのが始まりだ。現在、天然痘は根絶。世紀の発見といわれるゆえんである
▼ところが日本ではこのワクチンに拒否反応を示すマスメディアや市民活動家が少なくない。新型コロナワクチンの接種開始が間近に迫るこのごろ、副反応や危険性をことさらあおるテレビや雑誌、新聞をよく見掛けるのである。特定の新聞がかつて火を付けたために日本は子宮頸(けい)がん予防のHPVワクチン接種が今も世界から立ち後れたままだ。その轍(てつ)を踏んではなるまい。この大事な時期に人騒がせは困る
▼どんなワクチンにも絶対安全はないが、公益性が十分に高くリスクが限られるなら積極的に接種を進めるべきだろう。新型コロナの場合も同じである。厚生労働省と川崎市が27日、国内初の大規模訓練を実施した。一日も早く世界中にワクチンが届けられ、あまねく〝神のご加護〟のあらんことを。