仏文学者の河盛好蔵が著書『人とつき合う法』(新潮文庫)でこんなフランス小話を紹介していた
▼仲間とドライブに出掛けたA君がかなり走ったところで右隣のB君にささやく。「C君は最近金に困ってるんで車代は君が持ってくれないか? 昼飯代は俺が持つことにするから」。B君は快諾する。すると今度は左隣のC君に耳打ち。「Bのやつ金がないみたいなんで昼飯代は君にお願いしたい。車代は俺が払う」。そんなことならとC君も二つ返事で引き受けた。自分だけ金を出さずに済んだA君は、うれしさを表に出さないようにしながらも内心大喜びである。ちゃっかりしているというか小ずるいというか、実にけちくさい人物でないか
▼さて、こちらの方々も金を出さずにずいぶんと飲み食いさせてもらっていたらしいが、一体どんな気持ちだったのだろう。菅義偉首相の長男が勤める衛星放送関連会社「東北新社」から、公務員倫理規定に違反する接待を繰り返し受けていた総務省幹部らのことである。ただ接待総額は拍子抜けするほど少ない。去年12月までの4年間で計37件、総額52万円。高級官僚には大した額でもなかろう。なぜ折半しなかったか。「許認可権は省が持つ。飲食代は御社で」。そんな軽い調子で暗黙の了解ができていたのかも。いずれにせよけちくさい話である
▼先の河盛先生は割り勘派だった。「役人をしていたら、情にほだされて汚職行為をやりかねない弱さがある」ため、他人から恩恵は受けなかったと記している。〝人とつき合う法〟を忘れた官僚は熟読した方がいい。