風呂に入ろうと蛇口をひねってお湯を出す。他のことにかまけているうちそれを忘れてしまい、そういえばと見に行くと浴槽から盛大に湯があふれている。一体どれだけ無駄にしたのか。水道局と燃料業者をただもうけさせただけ。たまにやらかす失敗である
▼たかが風呂とはいえ流れ出すお湯を目の当たりにした驚きは案外大きい。自分のうかつさにがくぜんとし、家人からは「何をしてるんだか」とあきれられる。コップでもバケツでも同じ。油断していると水はすぐにあふれる。防ぐ方法は二つ。水を止めるか、容量を増やすかである。取るに足らない話を長々と恐縮だが、実は日本を苦しめる深刻な〝あふれ〟が一向に止まる気配もないのがずっと気になっているのだ
▼新型コロナウイルスの患者のことである。感染者はずいぶんと減り、諸外国と比べても少ないのに病床は今でも逼迫(ひっぱく)しているという。菅首相が3日、それを理由に東京など1都3県の緊急事態宣言を延長する考えを表明した。患者があふれそうなら容量を増やせばいいようなものだが、民間経営の病院が多いため病床増はそう簡単でないと医師団体は主張する。一方で国家的な危機だからと、一般企業や自営業者は問答無用で自粛や規制を強いられている
▼上陸から1年以上たち、感染者をここまで抑え込んでなお本当に病床逼迫というなら政治的に重大な失敗があったと批判されても仕方ない。政府は緊急事態宣言延長に前向きだが、その間にも失業者や自殺者はあふれそうになっているのである。うかつでは済まない。