公立はこだて未来大のベンチャー企業、未来シェア(本社・函館)が住民の利便性を向上させるために開発した、バスやタクシーなどを最短、最速で配車できるAI制御の交通便乗サービスSAVS(Smart Access Vehicle Service)が全国で広まり始めている。2013年度に開始した函館市内の実証実験から現在に至るまで、数々の地域で予約に応じて運行する乗り合い型のオンデマンド交通の実用化に成功。現在は、道内の自治体が抱える課題の解消につながるサービスを検討し、さらなる交通の高度化・効率化を図る考えだ。(函館支社・佐々木 健悟記者)
SAVSは、経済産業省の20年度事業である産学融合先導モデル拠点創出プログラム「チャレンジフィールド北海道」に採択された。はこだて未来大と札幌市立大が参画して24年度まで取り組み、連携してプロジェクトの本格普及を図る。
未来シェアが主体となり事業展開し、得られたデータを公立はこだて未来大や札幌市立大が技術研究に活用し、サービスの高度化を進める。将来的には公共交通、観光、医療送迎、スクールバス、商業施設送迎、物流など多くのシーンでの実用化を図り、無駄のない交通の実現を目指す。
SAVSは、AI管理により、限られた車両数で最大限の輸送効率を引き出すAI交通便乗サービス。乗客の移動要求と車両の運行状況に基づき、最も効率的な配車をAIが判断し、自動的にドライバーへ送迎指示を出す。乗客同士が乗り合うことを許容したリアルタイムな配車決定によって、送迎中でも新たな乗客の配車要求に応えることができる。
顧客用の乗客アプリ、運転者用のドライバーアプリ、配車を行うコールセンターアプリで構成。
乗客アプリは、スマートフォンに最適化されたアプリ。乗車・降車位置、人数、希望時刻などの情報を送信するとAIの計算により瞬時に車両情報、予定乗車時刻などの配車結果を乗客に通知。配車確定後は、担当車両の現在位置を地図上で確認できる。
ドライバーアプリは、車両の現在位置、AIが指示した行き先を地図上で確認可能。担当ドライバーは画面の指示に従って送迎を繰り返すことで最適な交通を実現する。
コールセンターアプリは、配車予約、車両の運行などシステム全体の状況把握と管理を担い、スタッフの操作で配車予約をする。
事業の始まりは、01年に産業技術総合研究所で開始したデマンドバス配車シミュレーションの研究。その後、はこだて未来大で研究を継続し、13年に函館市内で実車両の実証実験を開始した。SAVSの社会実用化を進めるため、16年には大学発ベンチャー第1号となる未来シェアを設立。今では札幌をはじめ、熊本、岩手、長野、岡山、群馬県など全国各地でジャンボタクシーや乗り合い自動車などの普及を進めている。
未来シェアの松舘渉社長は、人手不足、渋滞緩和、事故率軽減、CO₂削減といった課題を解決できると自信をのぞかせた上で「移動困難者、低所得者、高齢者を含め、全ての人がいつでも、どこでも行けるような社会づくりにつなげていきたい」と話している。
(北海道建設新聞2021年3月10日付1面より)