昨年秋の話である。とある公園を訪れると、そこには子どもたちが元気いっぱい遊び回る姿があった。見たところ幼児から10代半ばくらいの子どもたちだ。幼児はお父さんやお母さんと追い駆けっこ、大きい子どもたちはボール遊びやスケートボードに興じている
▼公園に歓声が響き、時折大きな笑い声も上がる。ちょうど通りかかった老夫婦がそんな光景をうれしそうに眺めていた。穏やかな夕方のひとときである。宮城県名取市の「震災メモリアル公園」。東日本大震災による津波被害が特に大きかった閖上地区に、鎮魂の祈りと復興の願いを込めて造られた。名取市の犠牲者は964人。その多くが閖上の住民だった。祈りの広場にはここを覆った津波と同じ高さ8・4㍍の慰霊碑「芽生えの塔」が立つ。海の底にいると想像して見上げると絶望的に高い
▼にわかには信じ難いが、現実に起きたことである。10年前のきょう、閖上同様、東北の太平洋沿岸に暮らす多くの人々はそんな巨大津波に襲われたのだ。沿岸の被災地を歩くと防潮堤や宅地の高台移転、かさ上げ道路といった事業がほぼ仕上がっている事実に気付く。これらが復興の礎になるのは間違いない。ただ本当に大切なのは心の傷を癒やし、平穏を取り戻すことだろう
▼閖上では仙台の友人に漁港も案内してもらった。岸壁は釣り客で埋まり、近くのサイクリング施設ではたくさんの家族が海沿いのコースを楽しんでいる。公園も漁港も子どもたちの元気な声であふれていた。これだけの笑顔があれば、復興の先にある未来は決して暗くない。