どの国にも長い言葉を省略する文化はあるが、日本は特にその傾向が強いらしい。そもそもあいさつの基本ともいえる「こんにちは」からして、「ご機嫌いかがですか」といった後に続く言葉をどこかにやってしまっている。冷静に考えると奇妙な話でないか
▼幾つかの音を抜きだして歯切れ良くつなげるのもよくある形だ。パーソナルコンピューターをパソコン、コンビニエンスストアをコンビニと呼ぶ類いである。新語も日々生まれていて、挙げていくと切りがない。ただ最近になってにわかに耳にする機会が増え、世間の注目を集めている略語を一つ示すとすると「まん防」だろう。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な地域に適用する「まん延防止等重点措置」を略したものだ。緊急事態宣言に先立つ方策として2月に新設されたばかりである
▼政府はきのう、大阪と兵庫、宮城の1府2県に、この「まん防」を適用すると決めた。いずれの地域も他と比べて、ここ半月ほどの間に感染者が急増している。言葉の響きでつい魚のマンボウを連想してしまうため、のんびり、ぼんやりした措置なのかと思いきや、さにあらず。飲食店などへの時間短縮命令や入場禁止、応じない事業者への罰則と、宣言に準ずる厳しさである
▼それなら最初から宣言を出せばいいのではとの声もあるが、事はそう簡単でもない。特定の業種を締め付け過ぎると、コロナより生活苦で多くの人が死ぬ。ここは段階を踏んできめ細かに対策を打つ手順が必要だろう。こればかりは日本人でも略して良しとするわけにはいかない。