札幌の郊外を歩いているとき、道の脇にふきのとうが一株、ひっそりと顔を出しているのを見つけた。つい先日の話である。灰色の枯れた草の中にりんとしてある若々しい薄緑は目にも鮮やか。春の便りを受け取った気がしてうれしくなった
▼どうやらそれまでは意識に上っていなかっただけのようで、一度見てしまうとあちらにもこちらにもふきのとうがあるのに気付く。春は知らぬ間にだいぶ進んでいたのである。平安時代の初期を代表する六歌仙の一人、小野小町に一首がある。「花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに」。一つの歌に二つの意味を持たせた秀作だが、表の意味は「ぼんやりすごしているうちに桜の花は色あせてしまった」である。今も昔もうかうかしていると春はすぐに過ぎ去ってしまうらしい
▼思えば本道は先月から妙に暖かかった。札幌管区気象台によると月平均気温が太平洋側で歴代1位、北海道全体でも2位の高温だったというから納得である。きのうから二十四節気の清明に入った。最近のすがすがしく明るい気候はまさにそれ。「暖かしあたたかしとて外にをりぬ」佐藤明日香。そんな句がしっくりとくる日が続いている
▼この先はどうか。1日発表の1か月予報を見ると、天気は春らしく2―3日で変わりながらも全体としては晴れて気温の高い日が多いとのこと。内向きになりがちなご時世だが、気持ちの良い春に気付かず通り過ぎるのはもったいない。たまには開けた場所で春のさわやかな空気と柔らかな陽光を楽しみたいものだ。