池江璃花子選手の言葉

2021年04月06日 09時00分

 脚本家の向田邦子さんが「花束」と題するエッセーで、名優森繁久彌さんに触れていた。演技を通じて多くのことを教えられたというのである。中でも一番大きいのは「ことばは音である」との気付きだったそうだ

 ▼向田さんは「馬鹿」のひと言を例に挙げていた。「森繁さんは、その時々のシチュエーションにふさわしく、百通りにも二百通りにも、いろんな人間がいるんだなあ、と書いた人間をびっくりさせる」。同じ「馬鹿」でも深い愛情表現から怒りの爆発まで、誰がどんな場面で言うかによって人に与える印象はまるで違う。森繁さんはそれを自在に演じ分けた。つまり「ことばは音」の意味するところは、言葉は人だということだろう

 ▼「努力は必ず報われる」。そんな使い古されてすり切れた言葉も、この人が言うとがぜん確かな輝きを放つ。競泳女子の池江璃花子選手である。おととい、東京五輪の代表選考会を兼ねた競泳日本選手権の女子100mバタフライで優勝。五輪代表の切符を手にした。競技後の会見で池江さんは「つらくてもしんどくても」に続けて、先の言葉を語ったのである。白血病を公表したのが2019年2月。苦しい治療に耐え抜き、プール練習を再開したのが去年の3月だった

 ▼それからまだ1年しか経っていない。何という努力、精神力か。きっとあの笑顔の裏ではプールほどの涙と汗を流したに違いない。以前、池江さんは「私にとっては、生きていることが奇跡」とも語っていた。五輪で活躍した後にもまた、誰もまねできない言葉をわれわれに聞かせてほしい。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 古垣建設
  • 東宏
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,405)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,232)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,164)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,121)
函館開建が国道5号の常盤川交差部に橋梁新設の可能性...
2024年04月17日 (781)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。