人は恐怖心にとらわれると判断力が鈍り、間違った行動に走りがちである。身を守るための本能的な反応なのだが、逆に危険を招いてしまう例も少なくない
▼医師で衛生学者のハンス・ロスリング氏も著書『ファクトフルネス』(日経BP社)にこう記していた。恐怖本能は「世界を理解するにはまったく役に立たない。恐ろしいが、起きる可能性が低いことに注目しすぎると、本当に危険なことを見逃してしまう」。東京電力福島第1原子力発電所の処理水にもあてはまる指摘だろう。恐怖心にとらわれている人もまだいるのでないか。実際は海洋放出しても環境への影響は無視できるほど小さい。多核種除去装置で適切に浄化できるからである
▼成人は常に4000の放射性物質を体に持つが、処理水の運用目標は1㍑当たり1500。大幅に薄めて海に流すため放射線はほぼ検出できない濃度に下がる。安全を検討した第三者委員会も昨年、「影響は自然被ばくと比較して十分に小さい」と結論していた。ただ人々の恐怖は消えず、本当に危険な風評を作り出している。メディアがあおり、風評被害を広げている側面も否めない。ともあれ政府は海洋放出の方針を固めたようだ。13日には決定するらしい
▼先日、筆者もオンライン講座で放射線について学び直した。知識はいらぬ恐怖心を拭うのに役立つ。ハンス氏もこう助言していた。危機を感じたときにすべきなのは「オオカミが来たと叫ぶことではなく、データを整理することだ」。科学的に検証された事実こそが、処理水の問題を解決する鍵だ。