災害少なく供給安定 酒蔵新設が相次ぐ
道産の日本酒が国内外で注目を浴びている。北海道の良質な水と高品質な酒米を使った日本酒は地域の特産品として人気が高い。温暖化の影響や台風などの災害が少ないことから酒米の供給が安定する道内で酒蔵新設が相次いでいる。道外酒蔵は後継者不足や国内消費量の伸び悩みを背景に減少の一途をたどるが、道内は唯一増加傾向にある。道外酒蔵が高品質な道産酒米の利用に乗り出すなど、酒産業に好影響をもたらしている。(建設・行政部 出崎 涼記者)
道内の清酒は、5月時点で13市町、14酒蔵で製造している。2020年度は三千櫻酒造(岐阜県)が東川町に移転し、全国初となる公設民営方式の酒蔵を新設した。また、上川大雪酒蔵が帯広市で碧雲蔵、箱館醸蔵が七飯町で酒蔵を新設。北見市周辺でも新たに新設が計画されている。
酒蔵が増える要因について、道農政部の担当者は「以前は積雪寒冷地で米作りに向かなかったが、品種改良で酒米の質が格段に良くなった。台風などの豪雨災害が少なく、酒米の供給が安定していることから酒蔵が増えている」と話す。
道の農業農村整備事業では、ほ場の大区画化など基盤整備を推進。農作業の作業効率が向上したことで、高品質米や酒造好適米の生産が拡大している。道産酒米の作付けは、「吟風」「彗星」「きたしずく」の3品種。道北を中心に作付け面積は年々増加しており、20年度は過去最高の452haまで拡大した。
20年に農林水産省がまとめた日本酒の出荷状況では、国内出荷量は1973年度の170万㍑をピークに減少が続き、19年度は46万㍑まで落ち込んだ。輸出量については近年、海外の日本食ブームを背景に日本酒の人気が高まっており、19年度は98年に比べて3倍の2万5000㍑に増加。世界市場は今後も拡大するとみられている。
一方で、清酒製造免許の新規発行は原則行われていない。過当競争により酒税の確保困難を防ぐほか、酒類需給の均衡を維持し、既存酒造の経営基盤を守るためだ。製造場ごとに年間6万㍑という最低製造数量をクリアする必要もあり、新規参入へのハードルは高い。
こうした状況を踏まえ、国税庁は21年4月から輸出用清酒製造免許制度を新設した。清酒の最低製造数量基準を適用しないこととし、これにより高付加価値商品を少量から製造できる製造場を新たに設置することが可能となった。海外の日本酒ブームへさらなる追い風となりそうだ。
北海道の良質な水と高品質な酒米は他府県に引けを取らない。輸出用免許の発行も道内の酒蔵新設の後押しとなる。道には酒蔵新設の相談が増えており、今後も増加する見込みだ。
(北海道建設新聞2021年5月21日付1面より)