新型コロナウイルスのパンデミックが人類にとって大きな災厄であることに疑問の余地はないが、あえて肯定的な側面を探すとすれば何があるだろうか
▼米ハーバード大で心理学を研究するスティーブン・ピンカー教授はこう考えるそうだ。「ナショナリズムが再燃する中にあっても、グローバルな国際協力が評価されていることです。当然ですが、ウイルスにとっては国境や民族の誇りなど、お構いなしですから」。インタビュー集『コロナ後の世界』(文春新書)で語っていた。自国優先主義が幅を利かせつつあった国際社会でウイルスから逃れられた国は一つもない。国と国との交流が途絶すると世界経済が滞る現実も目の当たりにした。世界からウイルスを駆逐しない限り、自国の安全も保証されないのだ
▼こういった取り組みには今後一層力を入れていくべきだろう。日本は2日、途上国のワクチン接種を支援する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」に877億円を追加拠出する方針を表明した。オンラインで開かれた「ワクチンサミット」の席上、菅首相が発言。各国にも協力を呼び掛けた。日本は既に219億円を拠出しているが、途上国の深刻なワクチン不足の解消を急ぐため上積みが必要と判断したようだ
▼ピンカー教授は先のインタビューでこうも語っていた。「ウイルスは、私たちが今日抱えている問題の多くが、本来的に地球規模のものであることを思い起こさせてくれました」。世界はつながっている。行き過ぎたナショナリズムは不毛。苦しみの中で得た教訓を手放すまい。