詩人田村隆一の作品に「木」がある。教科書で読んだ覚えのある人がいるかもしれない。「木は黙っているから好きだ 木は歩いたり走ったりしないから好きだ」から始まる短い詩である
▼こんな一節があった。「木はたしかにわめかないが 木は 愛そのものだ それでなかったら小鳥が飛んできて 枝に止まるはずがない 正義そのものだ それでなかったら地下水を根から吸いあげて 空にかえすはずがない」。勝手に付け加えさせてもらうとすれば、「信頼」そのものでもあるだろう。それでなかったら人が家を建てるのに、好んで使うはずがない。ところが今はその木が品不足で、家を建てたくとも建てられない事態になっているそうだ
▼いわゆる「ウッドショック」である。コロナ禍の巣ごもりで米国を中心に住宅需要が高まり、在庫不足と価格高騰が深刻になっているのだとか。金融緩和で低水準にある住宅ローン金利も影響しているらしい。感染拡大で物流が目詰まりを起こしているのも災いした。普段、供給が安定していて価格も低い輸入材に頼っている日本はそのあおりを受けた格好だ。本紙でも何度か伝えているが、着工の延期や建設費の見直しなど既に波紋が広がっている。家具業界も人ごとではないらしい
▼「苦しいときの」で国産材や集成材がにわかに注目されているものの、どちらも急な需要には対応できない。環境保護の問題で米国やカナダも昔のような増産はできなくなっている。こればかりは愛や正義ではどうにもならない。さて、このウッドショック、いつまで続くやら。