お酒を主題にした随想を読んでいると、思わず膝を打つような名調子に触れることが多い。酔いのなごりで、いつもより作者のペンに勢いがつくのだろうか
▼例えば漫画家赤塚不二夫の「紹興酒とお茶割り」。こんな一文があった。「旅と酒―ほんとうに不思議なものだ。どうして旅に出ると、うまい酒に出会うのであろう。東京でどんな高級なウイスキーを飲まされても、あの旅情にひたりつつの酒にはかてない」。作家で翻訳家の常盤新平は自分というものが見えてきた経緯を「偉大な酒場」にこう記している。「酒場があったから、呑みながら、他人と自分を比較することができた。かなしいかな、どの客もみんなすぐれて見えた」
▼そんなお酒を介しての出会いや、自分発見から遠ざかって久しい。全て新型コロナウイルスのせいである。不要不急の外出はできるだけ避け、集まってお酒を飲むのもご法度となれば、新たな体験が生まれるはずもない。とはいえ外飲み派の雌伏の生活も、もう少しの辛抱だ。政府は10都道府県に出している緊急事態宣言を、沖縄を除き、20日いっぱいで解除することに決めた。本道など7都道府県はまん延防止等重点措置に移行するそうだ。一時期、感染が急拡大していた札幌もきのうは44人。やっとほっとできる数字になってきた
▼本道はワクチン接種が他府県に比べ立ち遅れているが、徐々に追い付いていくに違いない。そうすれば、酒場での酒類提供や旅行も少しずつ元に戻っていこう。気軽に旅行し、ふらりと入った酒場で話に花を咲かせられる日が待ち遠しい。