戦国時代の合戦で山城を防衛するためよく使われた戦法に、攻め寄せる敵軍に上から大石や大木を転げ落とす攻撃があった。九州統一をもくろむ島津義久が高橋紹運の守る筑前(福岡県)の山城に攻め入った岩屋城の戦いが有名である
▼城を守る側は山上にたくさんの大石や大木を備えておき、敵を十分引きつけたところでそれらを次々と落としていく。最初だけ力を加えてやれば後は重力が勝手に仕事をしてくれた。静岡県熱海市で3日発生した大規模土石流災害は、上流部の盛り土部分を起点に崩落していることが分かったという。一帯は上流から下流まで土石流警戒区域だ。下流域の市街地を攻撃する意図があったわけではあるまいが、最も危ない最上流部の谷に崩れやすい盛り土をしていたとは信じ難い
▼因果関係はまだはっきり分かっていないものの、大量の盛り土が全て流失していることから、被害を甚大にしたのは間違いない。こう言っては何だが、山上に破壊兵器が置かれていたようなものだろう。土石流が建物や車を巻き込みながら流れ下る映像は衝撃だった。少なくとも130棟が被災し、安否不明者もかなりの数に上るそうだ。自衛隊や警察、消防が懸命の捜索を続けている。多くの人の無事が確認されるといいのだが
▼県も開発行為による盛り土があった事実を把握し、災害との関係を検証する構えと聞く。ただ、現地は土石流警戒区域の最上流部。地域を熟知しているはずの行政が開発行為を止めなかった責任も問われよう。地形を一体的に捉える昔の知恵が忘れられていなかったか。