最先端の小型エンジン技術を持つ下町の中小企業佃製作所の挑戦を描いたTBSドラマ『下町ロケット』(池井戸潤原作)のGPS農機編を見ていた人はご存じだろう。大手の帝国重工が競合するベンチャー企業に協力する下請け企業数十社に圧力をかけ、相手の事業を妨害する回があった
▼帝国とも取引がある下請けをベンチャーと付き合うなら今後一切発注はしないと脅したのである。下請けは一斉に手を引いた。その結果、ベンチャーの製品は生産停止に追い込まれる。自分の手は汚したくないが目的は果たしたい。そのため裏から手を回したり、からめ手から攻めたり。昔から実際によく使われてきた手ではある。まさかそれを国が、コロナ禍で最も苦しんでいる業界に仕掛けるとは思わなかった
▼西村経済再生担当相が8日、酒類提供を続ける飲食店が休業要請に応じない場合、融資元の金融機関が働き掛けを行うよう要請したのである。ただの思いつきでなく、金融庁に文書まで用意させていたらしい。発表と同時に多くの人が激しく反発した。菅首相も「承知してない」と政府内の混乱を露呈。要請は翌日に撤回された。西村氏はツイッターで「感染拡大を抑えたい強い気持ちが伝わらなかった」と弁解したが、謝罪はなし
▼法的な裏付けもない政策目標を達成するのに、金融機関に圧力をかけるよう無理強いする卑劣なやり口に国民はあぜんとしているのだが―。それが横暴との自覚もないようだ。先のドラマで世間に下請け工作が知られた帝国重工は一気に信用を失った。西村氏も同じだろう。