脳科学者の中野信子さんが、近著『生贄探し 暴走する脳』(ヤマザキマリ共著、講談社)で日本社会特有の風潮に触れていた
▼それは「win―winよりもlose―loseを指向する」ことだという。つまり「私が損をしているのだからお前も損をすべきだ」との考え方である。目立つような言動をして波風を立てるのは何としても避けたい。結果、挑戦して両者得するより、低きに流れる方を選ぶのである。こちらのニュースを聞くと、そんな悪しき風潮の典型例が出たと思わざるを得ない。開催中の第103回全国高校野球選手権鳥取大会で、米子松陰高校が出場辞退に追い込まれた一件である。16日に学校関係者1人の新型コロナウイルス感染が判明したのだ
▼ところが伝えられるところによると、当の関係者と野球部に特段の接点はなく、部員と顧問が独自に実施した抗原検査も全員陰性だった。次の試合までに感染者や濃厚接触者でない証明が公的にできないため辞退せざるを得なかったそうだ。米子松陰は春季県大会で優勝し、今大会も優勝候補の筆頭。それが初戦17日の前日に同校で感染者が出たため証明が間に合わないとされたらしい。おかしな話でないか。試合日が1日違えば問題なく出場できたかもしれない
▼去年から長くコロナで不自由を強いられている生徒たちにこの仕打ち。ただ今回はコロナのせいではあるまい。大人たちの事なかれ主義の犠牲になったのだ。高野連はきのうから対応を検討していた。本欄が載る20日までには誰にとっても良い結論が出ているといいのだが。