朱は水銀を主成分に作られるやや黄色みを帯びた赤色で、最も古くからある人工の色の一つである。縄文土器にも使われていたという。はんこの朱肉や習字の添削用朱液として今も現役なのはご存じの通り
▼「朱に交われば赤くなる」のことわざができたのも、そんなつきあいの長さゆえに違いない。人は関わる相手や環境によって良くも悪くもなるという意味だが、あの鮮やかさを見ると納得しないわけにいかない。たとえ少量でも周りを圧倒するほどの強い色なのである。日本で最近猛威を振るう新型コロナウイルス変異株デルタの危険性を知り、その朱色を連想した。こちらの強さも想像以上らしい。今まではうつらなかったごく短時間の接触でも、デルタなら感染する例があるそうだ
▼「デルタに交われば感染する」と覚悟すべきなのだろう。政府新型コロナ分科会の尾身茂会長がきのうの内閣委員会で政府にリスクコミュニケーションの熟達を求めたのも、国民に事態の深刻さを正確に伝えるためだった。現にほぼデルタに置き換わったとされる東京では新規感染者が27日2848人、28日3177人、きのう3865人と、感染拡大が一気に進んでいる。しばらく落ち着いていた本道も再び増加に転じた。このウイルスは実に手強い
▼高齢者のワクチン接種が進み重症者や死亡者は減ったものの、特に東京では同時に気持ちの緩みも出ていると聞く。流行の最先端を行く街だけに、いったん緩むと流れに乗る人が多く出るのも当然か。こんなときまで「朱に交われば赤くなる」でなくてもいいのだが。