どこの国にも笑い話はあるが、お国柄の違いでそこならではの話が生まれることも多い。「羊の運命」もそんな冗談話の一つだ
▼父親が子どもに、いたずらをしたせいでオオカミに食べられてしまったヒツジの話を教えている。父親が諭す。「いい子にしてないとロクなことはないって話だ。わかったね?」。すると子どもが言う。「でも、羊たちは狼に食べられなくても、どうせ人間に食べられちゃうんでしょ?」。どの国かお分かりだろうか。答えはアフガニスタン。『世界の紛争地ジョーク集』(中公新書)で以前読んだのを久々に思い出した。内紛が絶えず、他国の干渉を受け続けてきた国ならではの話だろう。好き勝手に振る舞っても、実直に生きても、結局は誰かの残酷な支配から逃れられないというのである
▼そんな見方を上書きする事態が再び起こった。イスラム原理主義反政府武装組織タリバンが15日、アフガンの首都カブールを制圧し、勝利を宣言。約20年続いた民主政権は事実上、崩壊した。各国大使館は国外退去を急ぎ、逃げ出す市民も後を絶たないという。厳格なイスラムの教えを守るか死かの選択を迫られる恐怖政治が戻ってくるのだから、落ち着いていられるわけがない
▼バイデン米大統領が9月11日までに駐留米軍を撤退させると表明した途端の電撃侵攻。バイデン氏はアフガン軍に期待していたが読み誤った。タリバンは平和的権力委譲を口にしてはいる。ただ、政権奪取後の武装勢力がいつまでも穏やかでいたためしはない。国民は今、先の子どものようにおびえていよう。