平成の時代に急増した現象にいわゆる「キラキラネーム」がある。言葉の意味や響きの良さを優先し、わが子に常識外れの名前を付けることだ。「天使(えんじぇる)」、「心(ぴゅあ)」という具合である。中には「今鹿(なうしか)」まであるそうだからもう何があってもおかしくない
▼文筆家の伊東ひとみさんがその実態に迫った『キラキラネームの大研究』(新潮新書)によると実は昔からあることだという。人の名前ではないが平安期にはイチゴを「覆盆子」、つゆくさを「鴨頭草」と表記していたそうだ。漢名をそのまま使っていたのである。日本人はそのころから和の言葉の響きを大切にし、漢字にはあまり頓着しなかったらしい
▼江戸や明治のころにも同じ傾向は見られたようだ。元からあった大和言葉を、後から入ってきた漢字に無理やり当てはめざるを得なかった歴史から生まれた日本ならではの文化というわけ。そこに英語まで加わったのだから、ネーム界が混沌とするのも当たり前である。公序良俗に反しない限りどんな名前を付けようと親の自由。誰にも文句を言われる筋合いはない。ただ役所には声を大にして言いたいことがあるようだ。漢字と読みがかけ離れているため、戸籍のデータ化がなかなか進まないというのである
▼上川陽子法相が7日、読み仮名の記載と漢字本来の読み方との違いをどの程度許容するかの検討に入る方針を表明した。現場の方々には同情する。いかに文化とはいえ、「王冠」を「てぃあら」と読ませるような名前ばかりでは作業が一向にはかどるまい。