ハードボイルド小説作家として名高い大沢在昌さんは、面白い作品を書くには強いキャラクターとプロット(構想)が大切だという。『小説講座 売れる作家の全技術』(角川書店)に記していた
▼まず読者が感情移入できる個性的な主人公を作り上げ、同時に強烈な印象を与える敵役と魅力あるヒロインも用意する。次にプロットだが、「読者にどんな楽しみを提供するのか」を意識することが何よりも重要らしい。その楽しみを象徴するのが「変化を読ませる」こと。〝この物語はこれから一体どうなるんだろう〟と「ハラハラドキドキ」させられたら成功だそう。こちらのプロットも相当才ある人が考えたのでないか。かなり多くの人の心をつかんだようだ。自民党総裁選のことである
▼とにかく4人の候補のキャラクターがよかった。菅政権で実行力を見せつけた若干あくの強い河野太郎氏、保守本流を体現する姿に勢いのあった高市早苗氏、未来を担う子どもに目を向ける身近な政治を説いた野田聖子氏。それと総裁の座を勝ち取った岸田文雄氏である。岸田氏は一見地味で押し出しも弱いが、他の候補と並ぶと安定感が際立っていた。男女2人ずつで皆党改革を訴え、自由に政策論議をさせたのも「変化を読ませる」演出に違いない
▼野党はじだんだを踏んだろう。菅政権は追い込んだものの、世間の注目をほとんど奪われた。とはいえ誰が作ったのであれプロットの効果もここまで。これからは岸田氏自身の力量が試される。どんな物語を書くにせよ、国民を意識することだけは忘れてほしくない。