昨今は役所や病院をはじめスーパー、コンビニなど、どこへ行ってもすんなり言葉の通じないことが多くなった。公用語が突然ラテン語に変わったわけではない。新型コロナウイルス対策のためのアクリル板や透明ビニールシート、マスクのせいである。うなずく人も多いのでないか
▼とにかく相手が何を言っているか分からない。音は聞こえるものの、言葉として耳に届かないのだ。聞き返すこともしばしばである。滑舌の良い人ばかりでない上、大きな声もご法度のご時世だ。何度かやりとりをしてやっと聞き取れたと思ったら、「ポイントカードはお持ちでしたか」だったりして。マニュアル通りの丁寧な接客が思わぬストレスを生むこともある。もどかしい状況でないか
▼どうやらそんな意思疎通の難しさを、日々感じている人がたくさんいるようだ。文化庁が先月公表した2020年度『国語に関する世論調査』でも、〈生活の変化とコミュニケーションに関する意識〉として特に一節が設けられていた。それによるとマスクを着けている者同士で会話するときは「声の大きさに気をつける」と答えた人が最も多く、74.1%いたそうだ。「はっきりした発音で話す」の57.5%がそれに続く。「相手の表情や反応に気をつける」「身ぶり手ぶりを多く使う」といった答えもあった。皆苦労しているのである
▼今はコロナも下火だが、シートやマスクに囲まれた生活は当分続く。「マスクしてパントマイムの別れかな」坪井つる。情景を想像すると妙に和む。大切なのは文句より工夫ということだろう。