日本の昔話に「猿の仲裁」という滑稽な話がある。幾つかの地域で伝えられているが、おおよそこんな筋立てだ
▼2匹の猫が道で2個のおにぎりを見つける。大きいのと小さいの。2匹とも大きい方が欲しいためけんかになる。そこで猿の出番。片方を食べて大きさをそろえてあげると言う。ところが大きい方が小さくなり過ぎ、さらに食べて大きさをそろえる。そうこうしているうち、全部なくなってしまったとさ。内輪の争いにつけ込まれ、おいしいところを全て猿に持っていかれたわけ。日本がかつて半導体王国から転落した理由の一つも似たような事情だった。国内で複数のメーカーがシェア争いにしのぎを削った結果、再投資する体力がなくなり、はたで見ていた中国や台湾、韓国に一気に水をあけられたのだ
▼中台韓は米国や日本から技術を取り入れ、国策として一気に工場の大規模化を推し進めたのである。日本は設計から製造に至る上下関係の風通しの悪さや、デジタル化への乗り遅れも災いした。日の丸半導体企業の衰退が今ほど骨身にこたえるときはない。全ての産業で急速にデジタル化が進み、大量の半導体が必要なのに、他国に頼るしかすべがないのである。思惑一つで日本の製造業は息の根を止められかねない
▼そんな中、半導体受託生産世界最大手TSMCの日本への誘致が成功した。熊本に新工場を建設するという。台湾企業なら信頼も置ける。政府は相当規模の補助金を出すようだ。経済安全保障や産業保護の観点からも妥当な措置だろう。猿に振り回されるわけにはいかない。