「人のにぎわいがあってこそのタクシー会社」
地域密着を掲げるタクシー会社の平岸ハイヤー(本社・札幌)は、マルシェ開催や国の登録有形文化財を活用したバー運営など地域活性化に向けた試みを進めている。人口減少に伴う需要縮小も見据え、地域とのつながりを多様な事業で強める考えだ。
同社は1958年、神代(くましろ)晃嗣社長の祖父が平岸での公共交通機関の必要性を踏まえ、タクシー2台で創業。当時から現在まで会社の所在地は変わらず、豊平区平岸の住宅街だ。18年に就任した神代社長のもとで現在は車両70台、ドライバー170人を擁する。
6月に雑貨や食料品、飲食物の屋台が並ぶ「平岸マルシェ」を会社の敷地内で始めた。月2回の頻度で開催を続けていて、毎回1000人程度が訪れる。
10月からは、数年前に買い取った国の登録有形文化財「柳田家住宅旧りんご蔵」でバーを開店。大正期に建てられたれんが造りの趣を生かして内装を整え、飲食業経験のあるドライバー数人がバーテンダーを務める。蔵は飲食提供やイベントの貸し切り利用にも提供していて、地元醸造所のビアガーデンや期間限定のフレンチレストランに活用されたこともある。
「平岸を最強の住宅街に!」というビジョンを掲げ、タクシー事業とは全く異なるビジネスを展開。事業を多角化して会社を大きくする意図はなく、「人のにぎわいがあってこそのタクシー会社。地域活性化を通じて出会いや移動のプラットフォームになりたい」と神代社長は強調する。マルシェの出店者同士が市内で飲食店を開いた例もあるという。
地域活性化事業の背景にはコロナ禍の影響もある。20年度の売り上げは前年度比25%減で特に夜間の減少が大きく、人が動かないとタクシー会社はお手上げになることを痛感。昨夏にはドライバーに感染者が出て、3日間と短期だったが休業を余儀なくされた。
現在はりんご蔵でのキッチン新設を計画し、食品開発やデリバリー事業を視野に入れる。買い物代行サービスを実施しているため、飲食店と食品を手掛けて生活の幅広いニーズを捉える狙いだ。まちづくりに取り組むタクシー会社の新しい形を探る。
(北海道建設新聞2021年10月22日付3面より)