古くからの漁師町、山口県仙崎で生まれ育った童謡詩人金子みすゞに『大漁』の詩がある。「朝焼 小焼だ 大漁だ。大羽鰯の 大漁だ。浜はまつりの ようだけど 海のなかでは 何万の 鰯のとむらい するだろう」。感受性の強いみすゞの目には悲しい光景に映ったらしい
▼『おさかな』という作品では「海の魚はかわいそう」「いたずら一つしないのに、こうして私に食べられる」と魚の悲運を嘆いてもいる。分け隔てない命への優しさに胸を打たれはするものの、こうしていちいち食べ物に感情移入していてはさぞ生きずらかったろうと思わずにいられない。香ばしく焼けた魚を前にして、魚がたどったつらい運命に思いをはせる人はまれだろう
▼ところがこんなニュースを聞くと、今どきは〝海産物はかわいそう〟と思えない方が野蛮なのかといささか考え込んでしまう。英国でロブスターやカニを生きたままゆでることが法律で禁止される可能性があるというのである。時事通信がきのう伝えていた。ことし5月、議会に動物福祉法改正案が提出されたのを機に、政府が軟体動物や甲殻類も苦痛を感じる動物かどうか調査していたらしい。依頼を受けた専門家チームが出した答えは〝痛みや苦しみを感じる科学的証拠がある〟だった
▼生きたままゆでるなど残酷の極み。牛や豚同様、穏やかに処理する方向へ転換すべきというわけだ。ゆくゆくはロブスターもカニも、気絶させてから調理する流れになるのかもしれない。浜ゆで毛ガニを前にすると涙よりよだれが出る当方には理解が追い付かない。