ことしも残すところあと1カ月弱である。2021年も新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)された1年だった
▼「まだ何もしてゐないのに時代という牙が優しくわれ噛み殺す」。歌人荻原裕幸さんのそんな一首がふと頭に浮かぶ。特に若者の多くはそう感じながら過ごしたこの1年ではなかったか。とはいえこのところコロナも落ち着きを見せ、ちまたに人が戻りつつある。人や経済が動いてこその暮らしだろう。わが家も昨年はほとんど出掛けないため冬物衣料や靴を買い控えていたが、最近必要に駆られて相次いで購入した。同様のお宅も少なくないのでないか。百貨店の11月度売り上げ高も、かなり好調だったと聞く。若者をはじめ広い年代で消費が上向いているようだ
▼内閣府が2日発表した消費動向調査を見ても、消費者の意識を示す「態度指数」は39・2で前月から変化はないものの、半年前の5月と比べると5.1ポイント改善している。中でも雇用環境は42・9(5月比15.2ポイント増)と回復が著しい。働きたいのに職がない現実ほどやるせないものはあるまい。幸せを実感できる事柄はいろいろあるが、稼いだお金を自分の裁量で使うのもその一つである。作家森茉莉さんのエッセーにこんな一節を見つけた。「私は何か買う時、品物そのものを買うというよりも、〝夢〟を買ってくるような、奇妙な場合が多い」。誰もが似たような経験をしていよう
▼クリスマス、年越し準備など12月は何かとやることの多い月である。どうせお金を使うのなら、できるだけたくさんの夢や幸せを買えるといい。