太古の日本語には色そのものを指す言葉がなかったそうだ。『日本語をみがく小辞典』(角川ソフィア文庫)で学んだ知識である。あったのは光の明暗濃淡を表す「明かし、暗し、顕(しる)し、漠(あお)し」だけ
▼そこからまず生まれたのが赤黒白青の4色だったという。それだけに各色の範囲は広く、明るく特徴がはっきりしているものは全て「赤」、未熟で漠然としているものは何でも「青」とされたらしい。「真っ赤なうそ」や「青二才」を思い出してもらうと分かりやすい。とはいえこれではやはり不便だったとみえて、平安時代までには他のものの名を借りて色を表現する形が定着した。「山吹色」や「あかね色」の類いである。個性をそのまま色に置き換えたわけだ
▼第207臨時国会が6日召集され、岸田文雄首相が衆参両院本会議で所信表明演説を行った。さて国民の目に岸田色はどう映ったろうか。衆院選があったためぼやけていた10月と違い、今回は色も輪郭もくっきりとと心掛けたはず。眺めると新型コロナウイルス関係は水際対策の強化やワクチン3回目接種、国産治療薬開発など先手を打つ姿勢にやや独自色が見える。ただ最も色が出ていたのは市場偏重によってゆがんだ経済を是正し、成長と分配を同時に実現する「新しい資本主義」だろう
▼一方、安全保障と憲法改正については自民党色、大胆な財政出動と見えてその実中身に乏しいのは財務省色か。首相がどこまで自分の色に塗り替えられるかお手並み拝見である。くれぐれも「暗し、漠し」にだけは陥らぬよう願いたい。