新古今和歌集に春の訪れを詠んだ一首があった。「山ふかみ春ともしらぬ松の戸にたえだえかかる雪のたま水」式子内親王。山の奥深くに立つ家のため春の訪れを意識してもいなかったが、松の戸にはぽつりぽつりと雪解け水が落ちていたというのである。目には見えない春をしるしで察したわけだ
▼季節や物事の変化もゆっくりだったり静かだったりすると感じないものだが、ふとしたきっかけで気付くときがある。おととい発表された「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会)にもその気付きを与えられた。1位が「金」だったのはご存じの通り。五輪の年には「金」が選ばれがちとの批判はさておき、東京五輪・パラリンピックで日本選手のメダルラッシュがあったことを思えば納得だ
▼ただここで注目したいのはトップ3の漢字である。去年は1位から「密」「禍」「病」と新型コロナウイルス関係の漢字が上位を独占した。ところがことしは2位が「輪」、3位が「楽」と明るめの漢字が並んだのである。世の中の雰囲気が徐々に変わってきている証拠でないか。マスメディアの多くや識者らが開催に反対した五輪も結局、感染拡大には影響しなかった。デルタ株収束後、日本のどこからも感染の再拡大が起こっていない事実も、人々の気持ちを軽くしていよう
▼結論を出すには早いとはいえ、少なくともこの2年の状況を見ると日本は他国に比べ重症者も死者も少ない。感染対策と日本の生活習慣が相乗効果を発揮しているのだろう。「今年の漢字」もコロナ雪解けのしるしだったらうれしいのだが。