例えばの話である。大相撲の世界に堅実な取組をするが、優勝にはほど遠い関脇クラスの力士がいるとしよう。体格には恵まれていないものの、相撲界の頂点に立ちたいとの思いは人並みに強い

　▼そこで彼はどうしたか。動きが機敏という自分の持ち味を余すところなく発揮し、とにかく相手の攻めをかいくぐって隙を突く戦法を生み出したのである。策は当たり、順調に勝ち進んで結びの大一番、対横綱戦を迎えた。所狭しと土俵を動き回り、どうにか先手を取ろうとする。ところが横綱は全く動じず、少し様子を見てから一気に攻めに転じ豪快に投げを打った。横綱の勝ち。ペースに引き込む彼の策は悪くなかったが、結局、速さも力も技も横綱の方が上だったのである

　▼こちらもそんな横綱の実力を鮮やかに見せつけ、世界中をあっと言わせた取組、いや記者会見だった。トヨタ自動車が14日、電気自動車(ＥＶ)の2030年世界販売目標を350万台にすると発表したのである。車も30種用意するという。ＥＶ開発は欧州の自動車メーカーが脱炭素の機運を利用することで先行し、後ろ向きなトヨタは競争に乗り遅れたと見られていた。実際は違ったのである。内燃機関を温存しながら他を圧倒する規模のＥＶ開発もひそかに進めていたのだ

　▼しかも資材調達のめども既に立っているというから隙がない。強大なサプライチェーンを持ち、有力メーカーとも数多く提携する横綱トヨタのこれが本気だろう。ペースに引き込もうとしたものの、逆に軽々と投げられた欧州勢は今、青ざめているに違いない。