行き過ぎた恐れ

2022年01月21日 09時00分

 萩原朔太郎の第一詩集『月に吠える』の序に、水を異常なまでに恐れる「恐水病者」に触れた一節があった。時々こんなことを考えるというのである

 ▼「コップに盛つた一杯の水が絶息するほど恐ろしいといふやうなことは、どんなにしても我々には想像のおよばないことである」。ほとんどの人が何のわだかまりもなく飲んだり使ったりするただの水。それがある人にとっては、なぜそんな恐ろしいものになるのか。恐水病のきっかけや原因については記していない。ただ、こう指摘している。「我々にとつては只々不可思議千万のものといふの外はない。けれどもあの患者にとつてはそれが何よりも真実な事実なのである」。恐れの本体は一人一人の心の中にあるというわけだ

 ▼感染の急拡大が続く新型コロナウイルス変異株〈オミクロン〉を巡る状況もこの話と似ている。むやみやたらと恐れる人がいる一方、重症化しにくく、無自覚無症状が多いのになぜ恐れる必要があるのかと疑問を感じている人もいる。ワクチンを2回接種し、感染対策も怠りないから恐れる理由がない。そう考える人からすると恐れる人の気持ちが分からない。社会全体の動きを止める行動制限なども理解の外である

 ▼政府分科会の尾身茂会長も最近、従来型行動制限の見直しを打ち出した。世論も割れている。実際この2年、世の中は息苦しくなり、自殺や嫌な事件が相次ぎ、失業者も増えた。恐れは本人にとって真実だからたちが悪い。仕方なく制限を課すときは、心の中にある恐れを肥大化させぬよう細心の注意を払いたい。


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