書店で本を漁っていて、随分と刺激的な書名を付けるものだと感心しながら手に取った。1級ファイナンシャル・プランニング技能士で文化人類学も研究する花房尚作氏の『田舎はいやらしい』(光文社新書)である
▼タイトルから受ける印象に反し中身は濃い。田舎が抱える問題を多面的に分析していた。特徴の一つとして示していたのが「情感に価値を置く」だ。絆や和の概念を、殊更大事にするというのである。その結果、「情感はコネや癒着に正当性を与え、恩義をわきまえないと『人でなし』と呼ばれて人間でさえなくなる」。学校や教育委員会がいじめを隠そうとするのも、こうした「内部の者を守る情感」だと強調している
▼旭川市で当時中2だった広瀬爽彩さんが去年3月、いじめを苦に自ら死を選んだとみられる事件にもこの「情感」が作用しているのでないか。爽彩さんが最初に学校へ問題を伝えてから3年弱、事件から約1年たった今も市教委と学校はいじめの実態を明らかにできていない。市教委の設置した第三者委員会が現在、調査を進めている。ところが最近、当の市教委が爽彩さんに聞き取りをしないまま「いじめはない」と判定していた事実が分かった。加害生徒らの話だけで幕引きにしたらしい
▼遺体発見後、教頭も真相を求める母親に取り合わなかったと伝えられる。市教委も学校も内輪を守る情感だけが大事なのだ。旭川が田舎かどうかはともかく、教育界の一部にはまだ後進性が残っているに違いない。解決できないわけである。爽彩さんの無念はいつ晴らされるのか。