築地市場の豊洲移転が土壌汚染問題で暗礁に乗り上げた際、移転を決めた知事から話を聞きたいと過日亡くなった石原慎太郎氏が東京都議会の百条委員会に呼ばれた。2017年のことである。そこでの本質を突いた発言はいまだに語り草だ
▼環境工学の専門家の言を紹介し、こう強調したのである。「風評というものの前で科学の真実が負けてしまうということは、これはやっぱり文明国として、国家としての恥」。悪貨が良貨を駆逐する、とのことわざもある。間違った情報が恐怖や不安を生み、正しい方向に進めなくさせることは現実によくあることだろう。そんなとき、判断基準になるのが確固たる証拠に裏付けられた科学というわけである
▼台湾もようやく風評から抜けだし、科学による判断へ転換してくれたようだ。福島第1原子力発電所爆発事故に由来する放射性物質の懸念があるとして、福島など5県産食品の輸入を禁止していたが、この措置の解除を決めたそうだ。台湾が8日、正式に発表した。福島県は事故後、現在に至るまで万全の検査体制を敷き、出荷される食品に基準値を超えるセシウム134など危険な放射性物質がないことを確かめている。最先端の機器で測られたデータに間違いはない
▼TPP(環太平洋経済連携協定)への早期加盟が今回の方針転換の狙いとの見方もあるが、それが事実でも大いに歓迎すべきでないか。少なくとも台湾はまぎれもない文明国で、風評に踊らされる恥ずかしい国とは違うことを内外に示したのである。信頼する友人との距離がまた近くなった。