谷川俊太郎さんの作品に、「まだ生まれない子ども」という詩があった。題名は易しいが、やや捉えどころがない。まだ生まれないとは一体どういうことか
▼前半を引く。「まだ生まれない子どもは ハハのおなかの中で まどろんでいる ハハは砂の上に立って 海を見つめている//まだ生まれない子どもは ハハのおなかの中で ほほえんでいる ハハは坂道を上る 日々をたしかめながら」。どこか不思議だ。おなかの中の子どもとお母さんが同時に一つのスクリーンに映されているからだろう。詩人の意図は最終節で明らかになる。「もう生まれてしまった子どもは それはつまりあなたですが ハハから遠く離れて 未生から後生へと いのちを一筆書きしています」。命から命へ連綿と受け継がれる生のリレーを描いていたのである
▼ただ、そのバトンは減る一方だ。厚生労働省が先頃発表した人口動態統計によると、2021年の出生数は過去最少の84万2897人(速報値)にとどまったという。6年連続の減少だが、ここ2年はコロナ禍でその傾向に拍車が掛かっている。政府や自治体の子育て支援も徐々に厚みを増してきてはいるものの、これだけ社会不安が広がっては安心して妊娠、出産へなど向かえはしまい
▼そもそも出生の前提となる婚姻自体がおよそ11万件減少しているとの推計も先に、東大教授らによって示されていた。一筆書きがあちらでもこちらでも寸断されているのである。コロナからの出口戦略が早急に必要だ。「まだ生まれない」が「もう生まれない」に変わる前に。