象にまつわるこんな話をご存じだろうか。インドやタイ、サーカスと話の舞台は語る人によってまちまちだが、中身は変わらない
▼細いひもでくいにつながれた象を見た人が飼い主に聞くのである。「あんな弱いひもではすぐに逃げられてしまいませんか」。すると飼い主が笑いながら言う。「力の弱い小象のときにがっちりつないで逃げられないと覚えこませると、大きくなってもその記憶に支配され続けるのさ」。いわば過去の亡霊に縛られ、今も身動きがとれないわけだ。多かれ少なかれ誰もが経験することだろう。真偽のほどは分からないが、さもありなんと思わせられる話である。ただこれが一国の命運を左右する事柄となると、そうのんびり構えてもいられない
▼わが国のエネルギー政策の件である。プーチン露大統領のウクライナ侵略に端を発する世界的なエネルギー危機が日ごと現実のものとなりつつあり、日本でも原油やLNGの輸入が厳しくなるのはほぼ確実だ。ただ、岸田首相の反応は鈍い。3日の記者会見で出たのは国民が一層の省エネに取り組み、石油やガスの使用を減らす努力をせよとのお達しだった。ご説ごもっともだが政府も今できることを全てやっているのか
▼動かせる原子力発電所がほぼ止まっている事実を首相も知らないわけはあるまい。欧州では原発見直しの動きが出ている。東日本大震災の福島第1原発事故以来、政府は再稼働には触れられないと思い込んでいるらしい。夏の電力最需要期を前に危機対応さえできないのなら、細いひもでつながれた象と同じである。