現代経営学の父、ピーター・ドラッカーは著書『マネジメント 基本と原則』(ダイヤモンド社)でコミュニケーションを解説するのに面白い例えを引いていた。禅僧が悟りを得ようと修行に用いるこんな公案である。「無人の山中で木が倒れたとき、音はするか」
▼答えは「否」だそう。なぜかといえば、「音波は発生する。だが音を感じる者がいなければ、音はしない」。知覚があるからこそ音もあるのだという。コミュニケーションもこれと同じだとドラッカーは教える。最も重要なのは受け手で、「聞く者がいなければ、コミュニケーションは成立しない。意味のない音波しかない」。はなから聞く気のない人とコミュニケーションを取るのは不可能ということだろう
▼さて、日本と摩擦の絶えない隣国の新たなリーダーに決まったこの方とのコミュニケーションはどうなるか。9日投開票された韓国大統領選で保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が当選した。5月10日に就任する。今の文在寅大統領は当初から反日姿勢を隠そうとせず、日本の対話呼び掛けにも本気で応えようとしなかった。歴史問題でも事実を見ず、日本の話を聞こうともしない。コミュニケーションが成立しないのも当然である
▼尹氏は国内政治を外交に持ち込んだと文大統領を批判。日韓の融和に意欲を示しているそうだ。岸田首相とも早速電話会談し、関係改善で一致したと聞く。ただ国内が苦しくなると日本の声を聞かなくなるのが韓国の常。日本がまた無人の山中で木を倒すことにならねばいいが。