例えばの話だが、あなたが誰かからこんな意見を聞かされたらどう思うだろう。「尻尾があって毛も生えている哺乳類で、どちらもペットとして人間にかわいがられている。だから犬と猫は同じ動物だ」。あなたの反応は、あきれた顔で「何をおかしなことを言っているんだ」でないか
▼両者の明らかな違いを無視し、共通する部分にばかり目を向けると、そんな突拍子もない結論に行き着いてしまうこともあるのだ。論理学で「誤った等価関係」と呼ばれる思い違いである。別の例を挙げると、殺人事件が発生したときにありがちなこんな見方。「犯人が悪いのはもちろんだが被害者にも落ち度があった」。結果の重大な相違を見ず、人には皆事情があるとの一般論にとらわれてしまうと、この手の錯誤に陥りやすい
▼おととい開かれた東大入学式で映画監督の河瀬直美さんが述べた祝辞に触れ、それを思い出した。「『ロシア』という国を悪者にすることは簡単である」とロシア悪者論に疑問を呈したのである。河瀬さんは言う。「その国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら」「一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤ってはいないだろうか」。ウクライナ侵略はロシアにも正義があるといわんばかり
▼ウクライナがロシアの主権を侵しただろうか、街を破壊し住民を虐殺しただろうか。ロシアのどこに正義があろう。今起きている事実を見ず、双方の国に事情があるから立場は同じというのでは犠牲者も浮かばれまい。誤った等価関係の主張はロシアを利するだけだ。