大事なものにはいい名前を授けたいと願うのは、人の自然な感情だろう。わが子の名前ならなおさらのことである。ただやり過ぎは禁物。おかしな方向に転びかねない。落語の「寿限無」がそれを教えている
▼皆さんよくご存じとは思うがさらっとおさらいすると、ある夫婦が物知りの住職に、生まれたばかりの子どもの名付け親になってほしいと頼む噺だった。長生きできそうな、縁起のいい名前を夫婦は要望する。住職はまず寿限無を提案した。夫婦が他にもないか尋ねると「五劫のすり切れ」があるという。さらに「海砂利水魚」「水行末雲来末風来末」と次々出てくる。選べなくなった夫婦は「全部つけよう」。かくして世にも長い名前が誕生した
▼こちらの大事なものも、いい名前を探しているうち正解が分からなくなったらしい。政府の「国家安全保障戦略」改定に向けた自民党の議論である。攻撃を受ける前に敵国のミサイル基地を破壊する、いわゆる「敵基地攻撃能力」の名称変更を検討していた。対象が基地とは限らない、先制攻撃のイメージは消したい、などがその理由という。防衛に一家言ある党内の論客たちが「自衛反撃能力」にしよう、いや「領域外防衛」だ、「ミサイル反撃力だ」と次々案を出してきた
▼絞りきれずに、「寿限無寿限無敵基地攻撃能力自衛反撃能力領域外防衛ミサイル…」とつなげてしまうのかと思いきや、「反撃能力」に落ち着いたとのこと。まあ、言葉遊びの類いである。今は世界情勢に即した抑止力の見直しが急務。能力の中身にこそ目を向けてもらいたい。