知床で観光船遭難

2022年04月26日 09時00分

 宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』(角川文庫)でひときわ印象に残る一節といえば、家庭教師の若い青年が小さな子ども二人を連れて列車に乗り込んでくる場面だろう

 ▼銀河鉄道は天上へ向けてひた走る「幻想」の列車。賢治は豪華客船タイタニック号座礁事故をモチーフにし、青年にこう語らせていた。「もうすっかり覚悟して、この人たち二人を抱いて、浮かべるだけは浮かぼうと船の沈むのを待っていました」。そうして波にもまれているうち、気付くと列車の客室に立っていたのである。読んでいて胸の苦しくなる場面だが、23日発生した現実の海難事故の報を聞いたときの暗たんたる思いとは比ぶべくもない。遭難した乗客乗員の家族らの悲嘆はいかばかりか

 ▼知床半島沖で小型観光船「KAZU I(カズワン)」が消息を絶ち、子ども2人を含む26人が一時行方不明になった。きのうまでに知床岬周辺で男女11人が見つかったものの、いずれも死亡が確認されたそうだ。残る方々の捜索が続いている。筆者も数十年前、知床で遊覧観光を楽しんだ。カモメと戯れ、断崖や滝に目を見張った。あれだけ岸寄りを行くのだ。経験豊富で海中の岩や気象、波を熟知した船長でなければ操船はできまい

 ▼遭難の背景には高波を押しての出航、船体に亀裂、経験の浅い船長―があったとも伝えられる。解明はこれからだが、原因が分かっても命は戻らない。先の物語同様、子どもたちの命だけでも救おうと皆が手を尽くしたことは想像に難くない。せめて少しでも早く全員を暖かい家に帰してあげたいものだ。


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