茶道にたしなみのある人はそう多くないと思うが、千利休を知らない人はいないのでないか。安土桃山時代に「わび茶」を大成させた千家茶道の祖である
▼わび茶とは狭い茶室で営まれる簡素な茶の湯のこと。利休はそれまでの華美な様式を根本から引っ繰り返したのだった。これが当時の武士文化にぴたりとはまったのである。豊臣秀吉からの信も厚く、裏で政治顧問のような役割を果たしていたのはご存じの通り。利休が生まれたのは1522年。ことしは生誕500周年に当たるそうだ。茶の神髄に触れるこんな言葉が伝わっている。「茶の湯とはただ湯をわかし茶をたててのむばかりなることと知るべし」。難しいことは何もないというわけだ。日本に茶の文化が根付いたのも、利休がいたからこそである
▼作家の赤瀬川原平さんが『千利休 無言の前衛』(岩波新書)に茶を毎日入れる習慣について記していた。「スムーズにとりおこなわれていくことによって、安心をするということがあるのである」。ゴールデンウィークも終わり、そろそろ「五月病」が話題に上るころだろう。連続する休みに生活リズムを崩され、心身の不調で職場や学校に行けなくなるのである。もしかすると、そんなときにはわび茶の精神が役に立つかもしれない
▼赤瀬川さんのように、毎日ゆったりとした気持ちで茶を入れるのである。別に茶でなくても構わない。何か簡単なことを毎日続けるといい。利休も言っている。「わびたるは良し わばしたるは悪し」。自然にわびるのを待てというのである。無理は良くない。