幕末期の日本を支えた立役者の一人、勝海舟は生粋の江戸っ子で歯に衣着せぬ物言いをする人物だったという。ある日のこと、「これも国家のためだから」と言って、いつまでも高職にしがみついている役人にこう言い放ったそうだ(『氷川清話』角川文庫)
▼「それはいけない。自ら欺くにもほどがある。昔にも、お家のためだから生きるとか死ぬとか騒ぐやつがよくあったが、それはみな自負心だ。うぬぼれだ」。いくらきれい事を言っても、しょせんは自分ほど優れた者はいないというおごりで、一皮むけば「国家のため」など少しもないと手厳しい。20年の刑期を終え28日出所した重信房子日本赤軍元最高幹部も、いまだ正義のために闘ってきたとのうぬぼれから脱していないのでないか
▼出所時に公表した手記「再出発にあたって」に「過ちはありつつも、子供時代から願っていた世の中をよりよく変えたいという願い通りに生きてこれたことを、私自身ありがたいことと思っております」と記していた。日本赤軍はパレスチナの武装勢力らと連携して数々の事件を起こした国際テロ組織。1972年にはイスラエルの空港で銃を乱射し100人を殺傷。74年にはオランダで大使館を占拠、77年には日航機をハイジャックしている
▼手記には昔の武装闘争の反省と犠牲者への謝罪もあるにはあった。一方で今の政治や国際情勢を批判する文言も少なくない。よく言えたものだ。世界中で凶悪なテロを実行してきた組織の最高幹部である。これ以上世界をかき回そうとせず静かに余生を過ごしてはどうか。