多くの国が感染対策の手本とする米疾病対策センター(CDC)は新型コロナウイルスの初期対応に失敗した。リスクを軽視したのだ。『最悪の予感』(マイケル・ルイス、早川書房)に教えられた
▼いち早く危機に気づいた異端の専門家たちの一人が言う。「CDCが火災報知器を鳴らすのを待っていたんです。でもCDCは火災報知器の鳴らし方を知りません。だって、この国には火災報知器がないんですから」。著者の表現を借りると、初期の段階では裏付けとなるデータが十分に集まっていないからと動かず、いざパンデミックという「銃撃戦」が始まると穴に隠れてしまう。最前線で戦う者からすると、CDCは肝心要の緊急時には役に立たない硬直した官僚的組織だったのである
▼さて、日本ではどうなるか。岸田首相がおととい、感染症発生時に最新の知見を政策に反映させるため、「日本版CDC」を創設すると表明した。基礎研究と臨床治療を同時に担うエキスパート組織を想定しているという。感染症対策の司令塔機能を強化するため、内閣官房に新設する「内閣感染症危機管理庁」と一体で運用するそうだ。取りあえず立派な看板はできたようだが、「所得倍増」を「資産所得倍増」に掛け替えた首相の姿も見ている。中身を確認するまでは安心できない
▼先の本からもう一節引く。「〝疾病対策センター〟ではなく〝疾病観察報告センター〟にすべきです。観察や報告はとても得意なんですから」。口は出すが手は出さず面倒な報告ばかり求める。そんな官僚的組織にはしてほしくない。